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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)1084号 判決 1968年2月29日

原告 破産者エバ商事株式会社破産管財人 岡安秀

右訴訟代理人弁護士 横溝一

被告 日新運輸倉庫株式会社

右訴訟代理人弁護士 大原信一

同 小田切登

主文

被告は、原告に対し、一、四三四、〇七四円およびこれに対する昭和四二年二月一六日より支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

この判決は、かりに執行することができる。

事実

第一申立

一、原告

主文第一、二項と同旨の判決および仮執行の宣言。

二、被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二原告の請求原因

一、訴外エバ商事株式会社(以下破産会社という)は、木材の販売を業とするものであるが、昭和四一年五月一〇支払を停止し、同月一二日、東京地方裁判所に自己破産の申立をなし、同年六月二八日午後一時、同庁において破産宣告を受け、同日、原告は、その破産管財人に選任された。

二、破産会社は、昭和四一年五月一〇日現在において、被告に対し、合計三、六二九、八一五円の木材運賃等債務を負担し、訴外平和工業株式会社に対し、合計一、四三四、〇七四円の木材売掛代金債権を有していた。

三、破産会社は、昭和四一年五月一〇日、破告に対し、右債務のうち一、四三四、〇七四円の弁済に代えて、右売掛代金債権全額を譲渡し、被告は、同月一一日、右平和工業株式会社より右譲受債権全額の弁済を受けた。

四、破産会社の本件債権譲渡行為は、その支払停止後の債務の消滅に関する行為であり、被告は、その当時、支払停止の事実を知っていたか、かりに支払停止となっていなかったとしても、破産会社は、その一般債権者を害することを知りながら、右債権譲渡をなしたものである

五、よって、原告は、本訴において、破産会社の本件債権譲渡行為を否認するとともに、被告は、すでに右譲受債権の弁済を受けているので、被告に対し、右債権額と同額の金員およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和四二年二月一六日より支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三被告の答弁および抗弁

一、答弁

1  請求原因一の事実中破産会社の支払停止の日時および自己破産申立の点は、不知、その他の事実は、認める。

2  (一) 同二および三の事実は、認める。

(二) 原告主張の被告の破産会社に対する三、六二九、八一五円の木材運賃等債権は、被告会社神戸支店扱いの取引に関するものであり、破産会社は、その支払のため、つぎの約束手形二通を、被告にあてて振出していたものである。

イ 額面一〇〇万円

満期 昭和四一年五月一〇日

支払地および振出地 東京都千代田区

支払場所 株式会社東京相互銀行神田支店

振出日 昭和四一年三月一〇日

(以下イの手形という)

ロ 額面 二、六二九、八一五円

満期 昭和四一年五月一五日

その他は、イに同じ。

(以下ロの手形という)

3  同四の事実は、否認する。

4  同五の事実は、争う。

二、抗弁

被告は、本件債権譲渡を受けた当時、これにより破産会社の財産を減少させ、破産債権者を害するに至ることは知らなかった。

第四原告の認否

一、被告の答弁2、(二)の事実は認める

二、被告が本件債権譲受当時、破産債権者を害すべき事実を知らなかったとの抗弁は、否認する。

右抗弁1の事実は、認める。同2から4までの事実は、否認する。

第五証拠<省略>。

理由

一、破産会社は、木材の販売を業とするものであるところ、東京地方裁判所において、昭和四一年六月二八日午後一時、破産宣告を受け、同日、原告がその破産管財人に選任されたこと、破産会社は、昭和四一年五月一〇日現在において、被告に対し、合計三、六二九、八一五円の木材運賃等債務を負担し、訴外平和工業株式会社に対し、合計一、四三四、〇七四円の木材売掛代金債権を有していたこと、破産会社が、同日、被告に対し、右債務のうち一、四三四、〇七四円の弁済に代えて右売掛代金債権全額を譲渡したことは、当事者間に争いがない。

二、1 <証拠省略>を綜合すると、つぎの事実が認められる。

(一)  (破産会社の支払停止に至るまでの状況)

(1)  破産会社は、東京都千代田区西神田二丁目四番地に本店を有する代表取締役訴外小椋武の個人的会社であるが、その規模を無視して経営を手広くしたことを遠因とし、在日米軍に対する木材納入契約につき所期のとおり木材の納入を認められず代金の支払を受けえなかったため、資金繰りの必要から市中高金利の融資を受けたことを近因として、昭和四一年四月二〇日ころから、順次、支払手形の決済に困難をきたすに至った。

(2)  ところで、破産会社としては、その取引銀行たる訴外株式会社東京相互銀行神田支店に対し、右在日米軍に約入予定の木材を見返りとして二、〇〇〇万円前後の融資を依頼しており、これにより立直りを策する見通しを有していたので、右融資が決定されるまで、一時、債権者に対する支払の猶予を得ようと考えた。

(3)  破産会社は、同年五月五日前後に、木材の仕入先で合計一、〇〇〇万円前後の大口債権者である北陸在住の木材業者数名に対し上京を求め、破産会社の資金繰り状況を説明して支払の猶予による協力を要請するとともに、順次満期の到来する支払手形の所持人に対しては、個別に支払の延期を求め、さらに、同月八日には、東京都内訴外第一ホテルに主たる債権者の来集を求め、資金繰り状況を説明して協力を求めた。

(4)  当時、破産会社の主たる財産は、前記在日米軍に対する納入予定の約一、八〇〇万円相当の木材であり、これは、破産会社の川崎倉庫に格納されていた。

(5)  ところで、支払の延期については、北陸在住の債権者の了解をうることは必ずしも不可能とは考えられなかったが、破産会社が、同月一二日を満期とする約束手形により右木材を譲渡担保として借入れを行なっていた市中高金利の金融業者訴外共和商事株式会社は、その数百万円の債権につき支払の猶予を承諾しないばかりか、遅くとも同月七、八日ころから前記木材の搬出を始め、同月九日には、約四分の三の木材を運び去った。

(6)  小椋武は、右木材搬出の開始により取引銀行よりの金融の途が絶たれたと考え、遅くとも同月八日には、破産会社の倒産を覚悟した。

(7)  破産会社は、同月一〇日、額面四〇万円前後の支払手形を不渡として支払を停止し、同月一二日、東京地方裁判所に対し、自己破産の申立を行なった。

(二)  (破産会社が被告に対し本件債権譲渡を行なうに至った事情)

(1)  破産会社としては、被告に対する前記一認定の債務の支払のため、イおよびロの手形を被告にあてて振出していた(以上の事実は、当事者間に争いがない)ので、小椋武は、被告についても、前記(一)、(2)認定と同様の方針に則り、先に満期の到来するイの手形につき、満期の二、三日前、被告会社神戸支店に対し、電話により、支払のための呈示の猶予を求めた。

(2)  被告会社神戸支店営業課長訴外大葉章三は、右連絡により直ちに上京し、被告の傍系会社であって、破産会社を被告に紹介した訴外日新梱包株式会社の営業課長訴外高井和男を帯同して破産会社に赴むき、小椋武と種々接渉を行なったが、一両日の接渉の後、同月一〇日にいたり、すでに訴外東洋信託銀行株式会社神戸支店において割引かれていたイの手形の買戻しを行なうことを了承するとともに、その代償として前記一認定のとおり破産会社の平和工業株式会社に対する債権を譲受けた。

一方、イの手形は、同日、被告によって買戻された。

(3)  被告が、破産会社から右債権譲渡を受けるに至ったのは、破産会社と平和工業株式会社の取引は、被告の紹介によるものであるため、被告において、平和工業株式会社が破産会社に対し債務を負担していることをあらかじめ知っており、大葉章三から積極的にこれの譲受けを求めたことによるものであって、破産会社としても、平和工業株式会社との取引に関する被告の右特殊の地位を考慮し、これに応じたものであるが、当時、破産会社としては、前記金融業者により搬出された木材を除き、財産としては、右債権以外には殆んどみるべきものはなかった。

以上(一)、(二)の各事実が認められる。

三、果して然らば、破産会社の本件債権譲渡行為はその支払停止の後になされたとする原告の主張については、前記認定のとおり本件債権譲渡および支払停止の事実の双方が、ともに、昭和四一年五月一〇日のことに属し、そのいずれが先ともこれを決すべき証拠を欠き、結局、その立証のないものというべきであるが、本件債権譲渡行為が、小椋武において倒産を免がれえずと観念した同月八日以降ですでに川崎倉庫所在の木材の大半が搬出された日以後の同月一〇日のことに属し、かつ、右債権が右木材とともに破産会社の唯一に近い財産であることは右認定のとおりであるから、右債権譲渡行為は、破産会社がその一般債権者を害することを知ってなした行為にあたると推認するのが相当であり、この点に関する原告の主張は相当である。

四、進んで、被告のいわゆる善意の抗弁について判断するに、当裁判所は、本件全立証によっても、これを認めることができない。すなわち、

1  被告と破産会社の取引は、被告会社神戸支店扱いをもって前後二回行なわれたにすぎず、第一回目は、昭和四〇年八月ころ、一五〇万円程度の取引を行ない決済ずみであり、本件の被告の被産会社に対する債権は第二回目の取引に基づくものであることは、当事者間に争いがなく、証人大葉章三、同高井和男は、破産会社が資金繰りに困難を来たしていることは了解されたが、小椋武より在日米軍に納入すべき木材を見返りとする取引銀行よりの融資の見込みについて説明を聴取した結果、イの手形の支払の猶予により破産会社は十分窮境を脱しうると考えられ、その他取立てのための債権者の来集等の異常事態は何等見受けられなかったから、破産会社が倒産するとは考えられなかった旨証言しているが、支払手形の呈示の撤回の要請そのものの異常事態性を重視するとき、以上の証言をその言葉通り受取ることは躊躇せざるを得ず、したがってこれらの証言等からいわゆる被告の善意を認めることは困難であり、また、本件債権譲渡当時における破産会社川崎倉庫よりの木材の搬出の有無に関する右証人らの証言部分の採用できないことは前記認定のとおりである。

その他、被告のいわゆる善意を認めるべき証拠はない。

2  それのみでなく、前記認定のとおり本件債権譲渡が大葉章三の要求により行なわれたものであり、しかも、譲渡された債権額は、イの手形の額面一〇〇万円を大幅に上廻っていることを考慮するとき、右一〇〇万円を上廻る部分は、ロの手形金の一部の弁済に代えるものとされていたことにつき、当事者間に争いがないにかかわらず、被告としては、小椋武より破産会社の経営状態につきある程度の説明を受けた結果、破産会社の倒産は時間の問題であり、この際出来るだけ多額の債権を回収すべきであると考えて本件債権譲受行為を行なったものであり、これにより他の破産債権者を害するに至ることを十分知っていたのではないかとの疑念を禁じえない。

3  何はともあれ、被告のいわゆる善意は、その立証のないことに帰し、被告の抗弁は認められない。

五、したがって、被告が、昭和四一年五月一一日、平和工業株式会社より本件譲受債権全額の弁済を受けたことにつき当事者間に争いのない本件においては、破産会社の被告に対する債務の弁済に代えて行なわれた本件債権譲渡行為を否認し、被告に対し、右債権と同額の金員およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日たることの記録上明白な昭和四二年二月一六日より支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求を正当として認容し<以下省略>。

(裁判官 矢口洪一)

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